STORY

「環」

彼は自らの身を食します。
彼は糞をしません。
彼の食したそれは、また彼の身を作ります。

他の生き物の何も奪わず、他の生き物に何も与えない。
彼は食物連鎖の外でポツンと一人、エネルギーを循環しています。

我が身を食し、その身を作る。
彼が意識してすることはそれだけです。

何者からも影響を受けず、何者にも影響を与えない。
そんな自分の存在に疑問を抱き、彼はそっと目を閉じました。


そうすると、時折り、白くぼんやりした女の人が現れます。

ぼんやりさんは言いました。

「あなたは意識せずとも呼吸しています。
酸素を吸い、二酸化炭素を吐くということは、
それだけで自然界の大きな環の中にいるということなのですよ。
居るということ、有るということ自体が役目や意味を孕んでいるのです。

いずれ命の灯火が消えた時、
あなたの魂はもっと大きな環の中を漂うことになるでしょう。
死や無といったものですら…………」



彼はゆっくりと目を開きました。